友人から教えてもらった「80億分の1」というサイト。クリックすれば、すぐに別の人生を開始できる。
ただし、どの国に、どんな家に、男か女か、選ぶことはできない。いまこの瞬間にも、世界では一秒に四人ほどの赤ん坊が生まれているが、そのうちの一人になって、一生をたどる。国連や世界銀行の統計をもとに、その国の平均的な人生が、早送りで流れていく。
私は、コンゴ民主共和国に女の子として生まれた。
学校に通い、結婚し、子どもを産み、やがてたくさんの孫に囲まれた。途中、夫の名前が出てきて驚いた。知り合いと同じ名前だった(笑) 思わず笑ってしまったが、そのせいで、画面の中の夫が急に身近な人に思えてきた。
そして五十七歳で、結核で亡くなった。
最後の場面で、不覚にも泣けた。数分前まで見知らぬ国の見知らぬ女性だった人が、気づけば自分の一生になっていた。孫たちの顔を思い浮かべながら、まだ五十七だったのに、と思った。
日本に生まれた私にとって、結核は治せる病。だが世界には、それがいまも人生の終わり方として、統計の上に普通に現れる。知識としては知っていた。だが、一人の人生として通過すると、重みが違う。
政治哲学者のジョン・ロールズは、自分がどの立場に生まれるか分からない「無知のヴェール」をかぶった状態で、社会のルールを考えよ、と説いた。このサイトは、そのヴェールを、ほんの数分だけ実際にかぶらせてくれる。
もちろん、これは統計から組み立てた架空の人生であって、本物の誰かではない。ゲームで泣いたくらいで、世界を分かった気になってはいけないが、それでも、地図や数字では決して届かない場所に、一人の人生の形で連れていってくれる。世界の暮らしや文化を理解する入口として、これほど優れたものはそう多くないと思う。
私たちが日本に生まれたのは、たまたまである。来世はどこに生まれるだろう。
80億分の1 https://1in8b.life/ja




















