西洋画の歴史は、誤解を恐れずに一言でいうと、「写実的、キリストと人の裸の2本柱」と言っていい。禁欲と解放の戦いとも言っていいだろう。
しかし、その次元から離れた男がいた。絵の対象として、「人」ではなく「自然」を選んだ男。崇高な自然の風景にこそ美があると初めて風景画に本格参戦した男。
彼こそ、英国・ロンドンに生まれた床屋の息子、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(Joseph Mallord William Turner)だ。(自画像)

裸とキリストのオンパレードである西洋絵画に食傷気味だった私は、1989年、ロンドンで初めてターナーの絵を観て鳥肌が立った。
「これ、これだよ、美しいのは・・・」
荒々しい海、迫りくる嵐、生命力を感じさせる雲、虹が立つ山麓、座礁した船、地平線まで見渡せそうな丘、雪崩に襲われる小屋、こうした風景を観ていると、自然の「生命力」、そして偉大さと怖さと崇高さが観る者に迫ってくる・・・と同時に無常さも伝わってくる。

彼が東洋の水墨画を観たかどうかは知らない。しかし、西洋画と東洋画が融合するとこうなる、という絵画の新境地がここにある、と思った。
I know of no genius but the genius of hard work.
「天才なんてものは知らない。ハードワークの天才なら知っている。」という彼の言葉が残っている。
その証拠に、彼は膨大な数のスケッチや絵を遺した。
そんなターナーの絵が東京にやってきたので「再会」してきた(笑)。
初めて観た時の感動に比較すると、少し薄らいでしまったのは事実だが、やはり死ぬまでに一度は観るべき画家だと心底思う。
ターナー展
“2013年秋、英国最高の巨匠、待望の大回顧展”
http://www.turner2013-14.jp
2013年10月8日(火)~12月18日(水) 東京都美術館
2014年1月11日(土)~4月6日(日) 神戸市立博物館
因みに、夏目漱石「坊ちゃん」に登場する台詞がこちら。彼もロンドン留学中にターナーのこの絵を観たと思われる。
「あの松を見たまえ、幹が真直で、上が傘のように開いてターナーの画にありそうだね」と赤シャツが野だに云うと野だは「全くターナーですね。どうもあの曲り具合ったらありませんね。ターナーそっくりですよ」と心得顔である。

以上、私も「心得顔」に述べさせていただきました。