日々飛び込んでくる国際ニュースを見て、「なぜあの国はあんな非合理的な行動をとるのか?」「なぜ紛争は一向に終わらないのか?」と疑問に思うことはないか。私たちが世界の動向を読み誤る原因、それは「現在の表面的な出来事」だけを切り取って見ているからだ。
山中俊之氏の著書『世界のエリートが学んでいる教養としての超現代史』は、そんな私たちの視野狭窄を打ち破り、複雑に絡み合う世界情勢の「本当の姿」を浮かび上がらせてくれる、スリリングで知的な興奮に満ちた一冊。
グローバルビジネスの最前線に立つビジネスパーソンはもちろん、世界の仕組みを根本から理解したいすべての人に、本書を強く推薦したい。
なぜ日本のエリートは世界と話が合わないのか
著者の山中氏は、元外交官(エジプト、イギリス、サウジアラビアなどに赴任)であり、現在はグローバルビジネスのコンサルタントとして活躍する人物。世界108カ国を飛び回ってきた著者は、日本のいわゆる「エリート」と世界のエリートとの間に、歴史や国際情勢に関する教養の「絶望的な差」があることに警鐘を鳴らしている。
西欧の人々が近代史を「自らが主導してきた自分事」として捉えているのに対し、日本人はどうしても他人事として眺めがちだ。また、国際関係の根底にある「宗教(キリスト教やイスラム教など)」への深い理解が決定的に不足していること、そして無意識のうちに「西欧中心の価値観(欧米が正義であるという前提)」に染まっていることが、世界のリアルな力学を見誤らせる原因になっていると指摘する。
本書の最大の魅力:2010年以降の「超現代史」を3つの視点で斬るところ
本書は、世界がこれまでの前提(アメリカ一極集中や冷戦構造)から劇的に変化し始めた「2010年以降」を「超現代史」と定義し、世界をアメリカ、西欧、ロシア、東欧、中国、インド、中東、アフリカ、ラテンアメリカというブロックに分け、それぞれの地域を以下の「3つの層」で立体的に分析している。
- 現在(2010年以降の動向): トランプ政権の誕生やウクライナ戦争など、直近のパラダイムシフト
- 過去(歴史からの視点): 古代文明や植民地支配の記憶、宗教的背景など、ニュースだけでは見えない「行動原理」
- 未来(未来への洞察): 地理・人口動態・資源などを踏まえた、今後の国家の行方
このアプローチにより、表面的なニュースが「点」から「線」へ、そして「面」へと繋がっていく快感を味わえる。
圧倒的なリアリティで描かれる各地域の「行動原理」
本書の白眉は、各国の政治的・経済的な動きの裏にある「歴史的なトラウマ(怨念や屈辱)」や「根源的な恐怖・使命感」を容赦なく暴き出している点。
- アメリカの分断と使命感: アメリカの「善の押しつけ(過剰な軍事介入)」や極端な社会分断の根底には、建国当初のピューリタンによる「神の国をつくる」というプロテスタント的価値観が深く根付いている。
- ロシアと中国の「屈辱」: ロシアの強硬な外交姿勢は、防壁のない平原国家ゆえの「他国から侵略される恐怖」から来ている。また中国の強権的な一党独裁体制や周辺国への覇権拡大の原動力は、アヘン戦争以降の列強支配という「屈辱の歴史」を雪ぎ、中華思想(メンツ)を取り戻したいという強烈な執念にある。
- 西欧の「贖罪意識」と矛盾: 人権や環境政策で世界に厳しいルールを課そうとする西欧のエリートたち。その背景には、古代ギリシア・ローマから続く「ルールの担い手」としての誇りと同時に、植民地支配やホロコーストという負の歴史に対する強烈な「贖罪意識(良心の呵責)」があるという指摘。
- グローバルサウスの台頭と「反西側」のリアル: アフリカや中東、ラテンアメリカといった新興国が、なぜ欧米の価値観(民主主義など)に反発し、中国やロシアに接近するのか。そこには、不自然な国境線を引かれ、資源を搾取され続けてきた「植民地時代の怨念」が今も生々しく残っている。
「正解のない時代」を生き抜くための実践の書
これからは「国」という狭い単位にとらわれず、大局的な視座を持つことが重要。また、気候変動や人権問題(サプライチェーンにおける強制労働など)はもはや「綺麗事」ではなく、投資家や消費者から企業価値を直接問われる死活問題になっている。世界の歴史と宗教の文脈を知らなければ、ビジネス上の致命的な判断ミスを犯しかねない時代となった。
本書は、単なる歴史の教科書でも、無味乾燥な国際政治の解説書でもない。著者が実際に世界中を歩き、現地の空気を肌で感じ、ビジネスの最前線で直面した「生きた知識」の結晶ともいえる作品だ。
「なぜ世界はこうなっているのか?」
その答えを探求する旅へ、あなたもぜひこの約260ページの本書を片手に出発してほしい。読み終えた後、毎日のニュースの見え方が180度変わるはず。
