人々の常識をひっくり返した男、レヴィ=ストロース

フランスの文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースらが提唱し、当時の世界にものすごい衝撃を与えた考え方がある。一言で言うと、「世の中のいろいろなことの裏に隠れている『見えないルール(構造)』を見つけ出そう」という考え方である。いわゆる「構造主義」だ。

私たちは「見えないルール」に動かされている

たとえば、私たちが普段日本語を話すとき、「ここは主語だから『が』をつけて、次は動詞で…」なんていちいち文法(ルール)を意識していない。でも、無意識のうちに全員が同じルールに従っているからこそ、会話が成り立つ。

レヴィ=ストロースは、こうした「言語のルール」を研究する学問(構造言語学)にヒントを得て、「人間の社会や文化も、言葉の文法と同じように、みんなが気づいていない『無意識のルール(構造)』で動いているんじゃないか?」と考えた。

アマゾンの奥地で見つけた「驚きのルール」

彼は実際にアマゾンの奥地に行き、さまざまな原住民の生活を観察した。一見すると、彼らの生活や風習は、近代的な西洋の人間からすれば「野蛮」で「めちゃくちゃ」に見えた。

しかし、レヴィ=ストロースが彼らの文化の「奥底」をじっくり分析すると、そこには驚くべき事実があった。

たとえば、カドゥヴェオ族という部族の女性たちは、顔に複雑で迷宮のような幾何学模様を描く。一見バラバラで適当に描いているように見えるが、実はトランプの絵札のように、ものすごく計算された「対称性(バランス)」のルールに従って描かれていたのだ。また、神話や結婚のやり方などにも、まるで数学のようにきっちりとした複雑なルールが隠されていることを突き止めた。

表面上はバラバラで意味不明に見える現象の奥底には、実は「美しい法則(構造)」が隠されているのだ。

なぜ構造主義は「常識をひっくり返した」のか?

この構造主義という考え方は、主に2つの点で、当時の人々の常識をひっくり返した。

① 「人間って、本当に自由なの?」という衝撃

当時のヨーロッパでは、「人間は自分の意思で自由に考え、自分で歴史を作っていく生き物だ(実存主義)」と信じられていた。しかし構造主義は、「いやいや、人間は自分で自由に考えているつもりでも、実は自分では気づいていない『社会の見えないルール(構造)』のうえで踊らされているだけかもしれないよ」と突きつけたのだ。これは当時の知識人たちに大きなショックを与えた。

② 「西洋が一番えらい」という思い込みをぶっ壊した

それまでは、「西洋の近代文明が進んでいて、アマゾンなどの原住民は遅れた未開の人たちだ」という偏見が当たり前だった。しかし構造主義は、「一見遅れているように見える部族の文化にも、西洋文明と同じくらい高度で複雑な『見えないルール(構造)』がしっかり存在している」ことを証明した。 つまり、「どの文化が上か下かなんてない。見た目が違うだけで、人間の頭の中にある『構造』はみんな同じなんだ」ということを明らかにしたわけだ。

このメガネをかけて世界を見ると、「自分たちと違う変な人たち」と思えた相手の中にも、自分たちと同じような「隠れたルール」があることに気づき、世界をよりフラットに、深く理解できるようになるのだ。

ブラジルの奥地に「人間の最も感動的な愛」を見つけた

ブラジルの奥地に住むナンビクワラ族。彼らは服も家もなく、極限まで貧しい生活を送っている。それでも、家族で寄り添い、笑い合い、愛情深く生きている。夜になると、家族は焚き火の周りに裸で寄り添って身を寄せ合い、夫婦はお互いを労わりながらシラミを取り合ったり、冗談を言って笑い合ったりしている。また、子どもに対しては怒ったり罰を与えたりすることはめったになく、非常に深い愛情を注いで大切に育てている。

彼はそこに「人間の最も感動的な愛」を見た。 物質的な豊かさがなくても、人間の根底には確かな愛がある。その事実を知ることが、深い慰めと静かな幸福を与えてくれる。

『悲しき熱帯』 お時間あるときに読んでみてください。

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