旅は着く前がいちばん楽しく、贈り物は開ける前がいちばんふくらむ。月もおそらく、出てくる前がいいのだろう。
今年の中秋の名月は、九月二十五日。まだ十日先。今から書くのは気が早いようだが、この行事に限っては、待つことがテーマになっていると思われる。昔の日本人は、月に細かく名前をつけてきた。ちょっと整理がてら調べてみた。
新月から満ちていく途中の二日月、三日月、上弦(じょうげん)の月、十三夜、小望月(こもちづき)。そして満月を過ぎると、十六夜(いざよい)、立待月(たちまちづき)、居待月(いまちづき)、寝待月(ねまちづき)、更待月(ふけまちづき)、下弦(かげん)の月、晦(つごもり)と続く。
なんといっても、この後半に入ってからの名前が面白い、というか、その風雅さに感心する。
月の出は、日ごとに少しずつ遅くなる。満月の翌日はためらう(いざよう)ように出てくるから十六夜。その次は立って待つうちに出るから立待月。さらに次は、立って待つと疲れるから座って待つ居待月。その次は横になって待つ寝待月。最後は夜も更けてから出る更待月。
つまりこれは、立って、座って、寝転んで。月が出るのを待つ人の体が、そのまま暦になっている。
月に細かく名付ける文化は、ハワイやポリネシアにもあるそうだが、世界では多くない。昔の日本人は待つことに退屈せず、待つ時間そのものを味わい、あまつさえ待ち方に名前をつけて楽しんだ。
いつのまにか現代の私たちは待てなくなっている。関西でいう「いらち」。電車が一分遅れれば案内が流れるし、私自身も、Youtubeは1.5倍速で観たり、届かない返信に苛立ったりしている(苦笑)
だが、それで失われたのはたぶん、待つ間のワクワクする時間、期待がふくらんでいく時間だろう。手に入れる前の、プレゼントを開ける前の、あの何とも言えない時間。
そんなことを考えながら、中秋の名月を楽しみにしておくことにしたい。そのころには、夜風も涼しくなっているだろう。
