西洋絵画の面白さ:山田五郎さんの主張

美術評論家や編集者として、アートの楽しさを優しくおもしろく伝え続けてくれた山田五郎さん。ご冥福をお祈りします。以前、彼の本『知識ゼロからの西洋絵画入門』を非常に面白く読ませていただいた。

あらためて引っ張り出して、彼が私たちに一番伝えたかったメッセージをまとめてみた。


絵画鑑賞は「勉強」じゃない

美術館で絵を観るというと、「歴史の勉強みたいで難しそう」「センスがないと分からないのかな」と思ってしまう人も多いと思うが、山田五郎さんは「そんなことはまったくない!」と。特別な知識や努力、才能なんてなくても、ただ自分が好きな絵を観て「いいな」と楽しむだけで、立派な絵画鑑賞なのだと。絵画は、ゴルフや釣りのように、誰もが自由に楽しんでいい「大人の趣味」のひとつにすぎない。

五郎さん流「観る眼」を育てる4つのコツ

ただ、せっかく観るなら「ちょっとしたコツ」を知っておくと、面白さが何倍にもアップする。五郎さんがすすめる「観る眼」を育てるコツは、とてもシンプルだ。

  • 何ごとにもとらわれずに観る  「これは有名なダ・ヴィンチの絵だからすごいはずだ」というような知識や情報は、ときに私たちの目を曇らせてしまう。世の中には、有名な画家のイマイチな絵もあれば、無名な画家の素晴らしい絵もたくさんある。だから、まずは名前やタイトルを気にせず、まっさらな心で絵そのものをじっくり観てみよう。自分なりに「好きだな」「おもしろいな」と感じた後で、初めて解説や画家の名前を見るのが五郎さんのおすすめ。
  • 実物をたくさん観る  画集でもいいので、とにかくたくさんの絵を観ていくと、だんだん「自分の好みの基準」が分かってくる。
  • 興味を持って調べてみる  絵を観て「どうしてこんな描き方なんだろう?」と不思議に思ったら、その裏にある歴史を少しだけ調べてみよう。背景を知ると、絵がグッと身近な存在になる。
  • 作品を買って飾ってみる  芸術は本来、美術館に閉じ込めておくものではなく、私たちの暮らしを豊かにするためのもの。高価な名画でなくても、お気に入りの絵を自分の部屋に飾って毎日眺めることこそが、絵画との一番正しい付き合い方だ。

西洋絵画の「リアルで濃い」裏側を楽しもう

明治時代以降に日本に入ってきた新しい絵画(近代絵画)は、おだやかで分かりやすく、親しみやすいものがたくさん。けれど、もっと古い西洋絵画の根っこには、「古代ギリシャの文化」「キリスト教」「ゲルマン民族(森の文化)」という3つの全く違う文化が混ざり合った、人間味あふれるどろどろとしたリアルで濃い伝統がある。

「人間は裸が一番美しい!」とするギリシャの考え方と、「裸はハレンチだからダメ!」とするキリスト教のルールがぶつかり合ったりしながら、画家たちは必死に工夫して美しい絵を生み出してきた。この「リアルで濃い」歴史のドラマを知ると、西洋絵画はもっと面白くなる。


なぜ、五郎さんはこの本を書いたのか?

実は、美術の「専門家」になればなるほど、専門的な細かい話にとらわれてしまい、美術全体を「ざっくりと分かりやすく面白く話すこと」が難しくなってしまう。だからこそ、五郎さんはあえて専門家ではなく「ただのファン(素人)」としての目線に立ち、初心者と同じ目線で、自分が本当に「面白い!」と思ったポイントだけを、難しい専門用語を使わずにみんなに伝えたかったのだと思う。

五郎さんが遺してくれたこの本は、「絵画って、こんなに自由で、こんなにツッコミどころがあって、面白いものなんだよ」と、私たちの背中をやさしく押してくれる温かいメッセージにあふれている。

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